Archive for July 15, 2013

大きく育たなかったトマト

(サイエンスディスカッション)

あるとき子どもたちでプランターにミニトマトを植えました。プランターに入っている土に苗を植えようとすると、その中には数えきれないくらいの虫がいました。「この土にトマトを植えてもみんな虫にたべられちゃうと思う。」と一人の子供が言いました。どうしたらいいか子供たちで意見を出し合ったところ、「殺虫剤は使えないと思う。食べ物だから」「捕まえてどけても全部の虫はどけられないと思う。」そこである子供が思いついた大胆なアイディアに子供たち全員が賛成しました。それは、プランターの土に熱湯をかけ、土の温度が下がったらそこに苗を植えればいいという意見でした。早速やってみることにしました。翌日土の温度も下がり、土の中を調べてみると、どうやら害虫は全滅したようでした。これで一安心。ミニトマトの苗を植え、肥料をやりました。子供たちは、はりきって日当りのいい場所にプランターを運こんでいきました。ところがこの苗、水をやり肥料をやり、植物活力素をやり、どんなに子供たちが一生懸命お世話をしても大きく育ちませんでした。

何が悪かったのか、みんなで話し合いました。「もしかしたら土に熱湯をかけたのが悪かったのかもしれない」という意見が出ました。「ミミズは害虫ではなく益虫だと思う。土の中にいた虫は、全部が害虫ではなかったのだと思う。」という意もでました。

近くの農家のおじさんにも、意見をきいてみました。「俺は学者じゃないから、正確な答えは言えないけどよ、人間の体の中に悪い菌ばかりじゃなくていい菌も住んでるっていうだろ? あれと同じだよ。土の中にもよう、大事な菌が住んでたのに、お湯をかけちまったからそいつが全部死んじまったんだよ! そりぁー死んだ土だ。コンクリートと同じだよ!」というのが農家のおじさんの意見でした。

今福先生の意見は、大人が何でもすぐに答えを教えない事です。『誰にも聞かないで、虫を殺さない土では育たないのか、泥をふるいにかけて虫の数を変えてはどうか、など自分たちで調べる』というのが今福先生の意見です。 これは大変な作業です。サイエンスの仕事に携わる人なら誰でも実感していることだと思いますが、実際やってみるとまず自分の思い通りの結果が出ないのが普通です。それでもくじけることなく次に何をしたらよいか考える。つまり大切なのは、正確な答えを出すことではなく、《自ら考える姿勢とそのプロセス》です。数学のように答えのはっきりした学問でも、『不可能問題』にかけられた時間は莫大なものです。錬金術によって、金を作ることができなくても、そのプロセスでどれだけ科学が進歩したか知れません。そして、グループで考えると、自分とは違うさまざまな考えが出てきますが、グループでのさまざまな意見が、自分の考えと違っていても、それを尊重することを学ぶことも大切です。

なおちゃんのシクラメン

なおちゃんはお花が大好きでした。中でも一番好きなお花が、掌サイズのシクラメン。赤、白、ピンク、いろんな色、いろんな種類のシクラメンがなおちゃんのバルコニーには可愛らしく並んでいました。ピンクに白のフリルのついたシクラメンは、なおちゃんの一番のお気に入りでした。そしてそのとなりには『クルミ割り人形』が置かれていました。何故ってその白いフリルの可憐なシクラメンは、なおちゃんの中ではクララだったから…  日が傾くと、なおちゃんは花たちをお日様のあたる場所に移動させました。乾いた日には、葉に霧吹きをし、夕方になると暖かい部屋の中に花たちをしまいました。なおちゃんがこんなにお世話をしているのに、花たちは何故か元気がありませんでした。

ある日、なおちゃんがママと一緒にお花屋さんに行くと、店先には見事なシクラメンがたくさん並んでいました。どのシクラメンも生き生きと、そして葉の一枚一枚がツヤツヤしていました。なおちゃんはしゃがみこんで、店先のお花に見とれていました。『どうやったらこんなに奇麗に咲くのかしら?』と考えながら…。そんななおちゃんの可愛らしい後ろ姿を見て、お花屋のおじさんが声をかけました。「お嬢ちゃんはお花が大好きなんだね」そこでなおちゃんは毎日一生懸命花たちのお世話をしているのに、花たちが元気が無いことをおじさんに話しました。

「あのねお嬢ちゃん。花っていうのはね、手をかけすぎても奇麗に咲かないんだよ。だから、お日様を追いかけて花を移動させたり、夜暖かい部屋にいれてやる必要はないんだ。お嬢ちゃんの花は『くるみ割り人形』の兵隊さんに任せて、夜はバルコニーで寝てもらうのが一番だよ。霜が降りても、雪が降っても決して枯れないから心配しなくても大丈夫だよ。シクラメンていうのはね、とても強い花なんだ!」

その夜なおちゃんはくるみ割り人形に言いました。「バルコニーの花たちをしっかり守ってね!」

今、なおちゃんのシクラメンはとても奇麗に咲いています。お花屋さんのお花に負けないくらいに…

スペースシャトル

2003年2月1日、アメリカ合衆国の宇宙船スペースシャトル「コロンビア号」が大気圏に再突入する際に空中分解。あまりに悲惨なニュースに、ユウ君のママは顔を覆いました。今の報道をユウ君はどう受け止めたのかしら… ママはユウ君の方を見ました。ユウ君はブロックで遊んでいました。

 

ユウ君は動物や植物の大好きな男の子でした。ユウ君は毎日ママと裏山へ行き、ザリガニやオタマジャクシを捕まえました。裏山の田んぼは、生き物の宝庫でした。時には、マムシやヤマカガシと出くわすこともありましたが、攻撃しなければ毒をもった蛇たちも、向かってこない事をユウ君は知っていました。杉の木の斜面を滑り降りると、小さな小川がサラサラと流れていました。水辺の大きな石の下には、沢ガニが隠れていました。湧き水で濡れた甲羅は、木漏れ日を浴びて宝石のようにキラキラとしていました。ユウ君は捕まえた動物は必ずもとの場所に戻してやりました。明日来ればまた会えるし、家に連れて帰ると宝石のような沢ガニも、輝きを失ってしまうことを知っていたからです。

 

ユウ君のママは、ユウ君のためにいいと思うことは何でもやってきました。そしてママは、気持ちの優しい元気一杯のユウ君が大好きでした。けれどユウ君が学校に行くようになると、ユウ君の育児が正しかったのかどうかママには解らなくなってしまいました。それは学校の先生からユウ君について、沢山の問題点を指摘されたからです。ユウ君は先生に関係なくポケットからルーペを出して指の指紋を見ていたり、髪の毛を一本抜いて見ていたり、下敷きを使って太陽を見ていたり、虫眼鏡を使ってユウ君のノートから煙が出て来ることもありました。そして、給食が終わってもユウ君は片付けもせず、スプーンに映った逆さまの自分をいつまでも眺めているのでした。ユウ君は先生とは関係なく、自分の思いついたことをやっていたのです。

 

スペースシャトルの事故から一週間が過ぎました。その日はユウ君は公園で砂のお城を作っていました。だんだん暗くなってきたので、ママはユウ君に言いました。「お城が完成したら帰ろうね」この小さな頭で、ユウ君は何を考えているのでしょう… あたりが真っ暗になって、ユウ君のお城は完成しました。ユウ君とママが帰ろうとしたとき、夜空に飛行機のライトがピカピカと光っているのが見えました。ユウ君はキラキラした目でじっと夜空を見つめていましたが、飛行機のライトが見えなくなったとき、ユウ君の目には涙が光っていました。「あれが、この間爆発したスペースシャトルだったらいいな。実はあの事故は嘘で、いま帰ってくるところだったら…」

ムスカリ

ムスカリ

今年もバルコニーに、ムスカリの花が咲きました。21歳の長男がまだ小学校の頃、間引かれて校庭の片隅に捨ててあったムスカリを『可哀想だ』と言ってバルコニーの鉢に植えました。あれから10年、春になると必ず花を咲かせるムスカリ…  長男は今、メルボルンにいます。

( 2013/春)

手作りバイク

Skypeで届いた一枚の写真。自転車にエンジンがついている。芝刈り機のエンジンを取り付けた、手作りバイク。どうやら長男は、校長先生の許可をもらい、この奇妙な乗りのもでメルボルンの高校に通っているらしい。燃費が良く、ガソリンがなくなったら漕げばいいという優れもの(笑)

『Bravo! カッコいいよ!』                     (2009/ 春)

大人を困らせる小さな科学者

体育の時間のことでした。先生は子供たちと一緒にグランドをジョギングしていました。みんながグランドのちょうど真ん中を過ぎたとき、いったいどうしたことか、ヨウちゃんが逆走したのです。ヨウちゃんの莫大なエネルギーは、いつも大人には予測のできない方向に向いていました。「ヨウちゃんはみんなと同じ事ができないんです。」と担任の先生はママに説明しました。「どうしてグランドを逆走するの?」とヨウちゃんのママは少し腹を立ててヨウちゃんに聞きました。「あのね、グランドを走ってたらね、急に区役所の時計の色がかわったんだよ!」ヨウちゃんは目を丸くして説明しました。大人にとっては困った行動ですが、ヨウちゃんにとっては大きな発見でした。

その日の午後、ママはグランドの周りを歩いてみました。ママが、グランドのちょうど真ん中にくると、何と区役所の時計が白から黒に変わりったのです。そこで逆に歩いてみると、黒から白に!つまり区役所の時計は見る角度によって色が違うのです。『そういうことか… 』とママは理解しました。

そんなヨウちゃんを見て、あるとき校長先生が言いました「先生のパソコンが壊れちゃったの!ヨウちゃん直せる?」ヨウちゃんは『任せて!』とばかり頷きました。ヨウちゃんの真剣な顔を、校長先生はニッコリ笑って見ていました。しばらくすると何とヨウちゃんは校長先生のパソコンを直したのです。ヨウちゃんのいたずらや問題行動が、実は好奇心や探究心である事を校長先生は見抜いていました。

お天気のある日、ヨウちゃんは黒いゴミ袋を繋いで何やらせっせと作っていました。しばらくするとそれが何か校長先生にはすぐにわかりました。「何か新しい発見があったか?」校長先生が声をかけるとヨウちゃんはにっこり笑って頷きました。黒いゴミ袋は熱を吸収すると空高く舞い上がっていきました。ヨウちゃんは気球を作ったのです。巨大なゴミ袋が空を飛んでいるのを大人は見てどう思うでしょう? 大人がどう思ってもいいのです。気球を見上げるヨウちゃんの顔は輝いていました。

道 

カナちゃんのママはいつも朝早く、裏道を通ってカナちゃんを学校へ連れて行きました。カナちゃんにはハンディキャップがあったのです。こんなことではいけないと思いながら、ママはカナちゃんと二人で過ごす時間がほとんどでした。そんな、ママとカナちゃんの生活を大きく変えたのは、あるテレビ番組でした。番組ではカナちゃんと同じハンディを持った女性がお話していました。女性はゆっくりゆっくりでしたが、しっかりした受け答えで、素晴らしい感性をもっていました。『明日から、胸を張って大通りを歩いて行こう』とカナちゃんのママは決心しました。ママのお手伝いができるのは、まだ先かもしれませんが、カナちゃんもゆっくりゆっくりではありますが、確実に成長している事にママは気づいたのです。

 

大通りを歩いていると、子供たちがカナちゃんを追い越していきました。ママは勇気を持って「おはよう」と挨拶をしました。すると、「おはようございます!」と子供たちの元気な挨拶が返ってきました。学校の大分近くまできたとき、6年生のお姉ちゃんが「カナちゃんおはよう!」と声をかけてくれました。そして「カナちゃんは私が連れて行きます。」とママにいいました。今迄朝早く裏道を歩いていたので、こんなチャンスも無かったのです。カナちゃんはお姉ちゃんと嬉しそうに手を繋ぐと学校へ向かって元気よく歩いて行きました。

 

表通りを歩くようになってから、カナちゃんのママの思考は変わって行きました。お天気のいい日には、ママは学校の校庭や花壇の草刈りをすることにしました。初めは「こんにちは」と挨拶だけをしていた子供たちですが、だんだんカナちゃんのママのお手伝いをするようになりました。そしてその中に、沢山のお友達に囲まれて、ゆっくりゆっくりではありますが、一生懸命お手伝いをするカナちゃんの姿もありました。

泥の斜面

タッ君は手にあまる二歳。ママの言う事なんか聞きません。このLittle Gangに、ママは一日中振り回されていました。ある日タッ君は散歩に出かけると、遠くに見える階段に向かって元気よく走っていきました。階段を上るのかと思ったら、タッ君はその横の泥の斜面を四つん這いになって這い上がって行きました。「タッ君ダメダメ、階段を上りなさい。怪我しちゃうよ!」けれどタッ君は言う事なんか聞きません。泥だらけになり、膝を擦りむき、ママがタッ君のお尻をおして、何とか上へ上がることができました。「言う事聞かないから怪我しちゃうんだよ!わかった?」ママは念を押しました。数日後、散歩で、同じ階段のそばまで来ると、タッ君はまた元気よく階段へ向かって走って行きました。この間怪我をしたから今日は階段を上るのかと思えば、タッ君はまた泥の斜面を上って行きました。先日の繰り返し。泥だらけになり、膝を擦りむき、ママがタッ君のお尻を押上げ、何とか上へ。

次の散歩のときママはコースを変えることに決めました。けれどタッ君はママが何を決めたって無駄でした。その日も元気よく、ママの注意する声も右から左へ! タッ君は階段のあるコースへと向かって行きました。ママも負けずに作戦を考えました。『今日はタッ君のお尻を押してやらないことにしよう。「じゃあね、タッ君バイバイ!」って階段を上って置いて行っちゃえば、きっとタッ君も「ママ待って!」と階段を上って追いかけてくるだろう。』とママは思いました。

いつものようにタッ君は階段にむかって走って行きました。けれど、今日のタックんは、いつもとは違いました。ついに学んだのです。泥の斜面ではなくて階段を上る事? 残念ながらそうではありません。助走をつけて上ることです。四つん這いになり、泥だらけになり、ついにタッ君はママの手を借りずに、このどうでもいい、そしてママにとっては困った遊びを極めたのです。泥の斜面のてっぺんで、泥んこのタッ君はママに大きく手を振りました。「ママ見て! すごいでしょ!」

任務

私には一歳違いの兄がいました。兄は少年時代スパイ大作戦とコンバットにハマっていました。以下兄を隊長と呼ぶ事にします。隊長はこの二つの番組が無い日には、自分自身が主役となっていました。隊長には常に任務があり、隊長はその任務を達成するために、あるときは急な斜面をよじ上り、あるときは全力で走り、またあるときは背丈よりも高い草をバサバサとかき分け秘密基地へと向かうのでした。後に中学・高校でバスケット部のキャプテンを勤めたスポーツ万能の隊長の後を、一歳年下の私がついて行くのは大変な試練だったと思います。しかも私は隊長に、太郎という駄犬を任されていたのです。また、隊長は、毎日日の出と共に起床していました。そんな隊長の早起きを幼児期の私は半ば尊敬の目で見ていましたが、大学になって隊長がとんでもなく血圧が高い事を知りました。

そんな隊長が最も張り切る日は、司令官(ママ)の仕事が休みの時でした。それは隊長にとって、最も重要な任務がある日でもありました。部隊は例のごとく泥の斜面を駆けあがり、数々の困難と危険を 冒し、高い木によじ上り、やっと手に入れた貧弱な栗をポケットに詰め込み、隊長と部下二名(私と太郎)は全力で走って行くのでした。

そして、その日の隊長の任務は…

「ママ、今日はこんなにたくさん栗がとれたよ!」 「あら、すごいのね!」

最後のメッセージ

トモちゃんのうちには元気なおばあちゃんがいました。トモちゃんのママはとても忙しく働いていたので、おばあちゃんがママに変わって色んなことをトモちゃんに教えていました。その日おばあちゃんが気になったことは、トモちゃんの『握り箸』。おばあちゃんはいつもの様にトモちゃんと畳の部屋に正座しました。「トモちゃん、これを大きい方から順番にお箸でつかめるかな?」テーブルの上にのっていたのは、白豆、大豆、小豆、米の四つでした。トモちゃんはまず白豆を掴みました。次に大豆、そして何とか小豆も。けれど小さな米粒だけは、どんなに頑張っても握り箸では掴む事ができませんでした。するとおばあちゃんはその小さな米粒を楽々お箸で掴み、お皿に移しました。「どうやったの?」トモちゃんは目を丸くしました。「教えてほしい?」おばあちゃんがニッコリ笑うと、トモちゃんは頷きました。こんなふうにトモちゃんは、他にも沢山のことをおばあちゃんに習いました。綾取り、折り紙、お裁縫やお料理。どんな時もおばあちゃんは決して腹を立てず、トモちゃんの成長を見守っていました。

そんなある日、元気いっぱいのおばあちゃんが、病気で寝たきりのおばあちゃんになってしまったのです。おばあちゃんはうまくお話ができなくなってしまいました。けれど、おばあちゃんの持つ温かさは前と変わる事はありませんでした。おばあちゃんは寝たきりでしたが前と同じようにトモちゃんの帰りを待っていました。トモちゃんも前と同じように毎日学校から走って帰ってきました。共働き家庭のトモちゃんにとって、誰かが待っていてくれる事が何よりも嬉しかったのです。「おばあちゃん、ただいま!」手を洗うとトモちゃんはいい事を思いつきました。『そうだ、リンゴの大好きなおばあちゃんにリンゴを剝いてあげよう!』トモちゃんが皮をむこうとすると「リンゴはね、皮と実の間に栄養があるのよ」というおばあちゃんの言葉を思い出しました。トモちゃんはリンゴを皮ごとすりおろし、おばあちゃんの枕元へ運びました。『ありがとう』とおばあちゃんは手を合わせました。『リンゴの皮のお話、覚えていてくれたのね』おばあちゃんの笑顔はそう言っているようでした。

冬が近づいてきました。トモちゃんは、毎年おばあちゃんがこの時期鉢植えの木を剪定する事を思い出しました。「裸の木は死んでいるように見えるけど、寒い冬に見えないところで根を伸ばしているのよ。リンゴはね、枝を切り落として一回り大きく成長するの。」トモちゃんは、去年おばあちゃんが言った言葉を思い出しました。木の剪定にはいくつか注意することがありました。けれどトモちゃんは、それをちゃんと覚えていました。「おばあちゃん、枝はこのくらい切り落とせばいい?」おばあちゃんはニッコリ笑って頷きました。その笑顔からトモちゃんは次の言葉を思い出しました。「人もリンゴと同じ。辛い思いや悲しい経験を沢山積んで、一回り大きく成長するのよ。」木の葉の絨毯は土になって、いつか新しい命に生まれ変わるとおばあちゃんは教えてくれました。春になると死んだように見えた山椒の枝から若葉が芽を出し、可愛らしい実を沢山つけるのでした。摘みたての山椒の香りと彩りが、ささやかな料理をひきたたせてくれました。トモちゃんはそのことを、おばあちゃんから習いました。そしておばあちゃんは幼い頃、トモちゃんのひいひいおばあちゃんからそのことを習ったのでした。色とりどりの花の球根が、見えないところで春の訪れを待っていました。土の中には沢山の命が眠っている… 目をつぶると魔法のように、寒い冬が彩られていきました。

ある朝トモちゃんが目を覚ますと、雪が一面につもっていました。日の光に照らされて、キラキラ輝く雪の道が空まで続いて見えました。「おばあちゃん、見て!」あまりの美しさに歓喜あまってトモちゃんは叫びました。けれど返事がありません。「おばあちゃん」もう一度トモちゃんはおばあちゃんを呼びました。おばあちゃんは天国へ行ってしまったのです。襖を明けると銀世界に照らされて、トモちゃんにはおばあちゃんがニッコリ微笑んでいるように見えました。トモちゃんはその笑顔から、おばあちゃんの最後のメッセージを読み取ることができました。『もうトモちゃんに教えることは何も無いから、おばあちゃんは安心して天国へいきます。』